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Media Practices

映像コンテンツのコンプライアンス考査・スクリプト監修の業務から得た知見を中心に、メディアの在り方をクリティカルに論じてゆこうと考えています。

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テレビというメディアについて思うこと

  • 執筆者の写真: Toshio Shirai
    Toshio Shirai
  • 2024年11月28日
  • 読了時間: 4分

自分の仕事について語ってみようかと思う。

マスコミュニケーションの難しさは、ひとつのメッセージを不特定多数の受信者に伝達した時に、様々な状況におかれている各個人が同じメッセージを受け取ることはないという点にある。したがってマスメディアでは、メッセージの発信者が依拠するコードがすべての受信者に共有されることはないということを前提とした上で、最大公約数となるより共有可能であろうコードによって発信をしている。

テレビというメディアは不特定多数にメッセージを伝達するための社会的システムとして、不特定多数の受信者である視聴者に開かれたメディアであると考えられている。しかしながらその実態は放送が実施されている時間帯によってより狭く、一定の属性に偏重した視聴者を対象とした発信になっている。その放送時間帯におけるマジョリティの視聴者を対象とした放送をしている。受信者をある程度限定することで、発信するメッセージの読解コードの共有が図り易くなるのである。

マスメディアとして不特定多数を対象にするメディアであるが、テレビは放送する時間帯に応じてメッセージを伝達する対象を狭く設定することである程度閉じた放送を行っているのだ。

もちろん社会的システムとしてのテレビは常にそのバックグラウンドでは不特定多数の視聴者に対して開かれたシステムとして待機しているので、緊急事態が生じればニュース速報や特番を編成することがあるが、平時は放送時間帯ごとにある程度限定された視聴者に向けたメッセージの発信をしている。それがテレビというメディアを特徴づける多面性である。テレビはそれぞれの面が異なる多面体を構成しているのである。

多面体としてのテレビのある一面を構成する深夜の時間帯で放送されているアニメ作品は、不特定多数の受信者に対する発信ではなく、ある特定の視聴者に対する極端に閉じた発信になっていると言うことができる。そのある特定の視聴者は深夜という時間帯だけでなく、それぞれのアニメ作品のジャンルや内容に結びついている。もちろんそこにたまたま深夜に起きていてテレビをつけている偶然の視聴者がいることは避けられないが、深夜のアニメ作品は極めて限定的な視聴者に向けられたメッセージを発信していると言える。

つまり深夜アニメを放送しているときのテレビはある特定の視聴者に向けられた閉じられたメディアとして機能しているのである。そして深夜のアニメ作品はその限定的な視聴者に読解コードがほぼ共有されていると考えることができる。分かり易い例を取れば『ポプテピピック』というナンセンスな逆アニメの視聴者は共通した読解コードを持っており、それは発信者が依拠するコードとほぼ等しいものであるのです。そこには共通するリテラシーが存在しているのである。

現在の僕の仕事のひとつは深夜のアニメの制作過程でシナリオやコンテを見ながらコンプライアンスのチェックをすることなのだが、そのような分析的な態度でテレビというメディアを考えると、個々のアニメ作品で使用される表現についてのコンプライアンス上の考え方も変わってくる。

僕は深夜のアニメ作品に関して、テレビが不特定多数へのメッセージの発信のメディアであるという一面的な捉え方によってコンプライアンスの判断はできないと考えている。アニメ作品にはコアな視聴者に共有された読解コードがあり、彼らのほとんどは信用に足るリテラシーを持っているのである。それを踏まえたコンプライアンスの判断をしなければならない。そこがアニメ作品という閉じた世界で使われる表現や言葉に対するコンプライアンスの判断の難しいところである。ひとつの表現や言葉だけを切り出して、それを不特定多数の受信者に対する一般化された基準だけでその可否を判断するのは簡単であるが、その際に使われる読解コードはアニメ作品の読解コードとは異なるものである。アニメは深夜の個々の作品の視聴者という閉じた受信者に対するメッセージの発信であり、その読解コードはその作品の発信者と受信者とで確かに共有できているのである。それを前提として僕はアニメ作品のコンプライアンスチェックを行っている。

表現や言葉はあくまで記号であり、どのような読解コードで解読されるのかとその作品のコンセプトやコンテクストに照らし合わせて表現や言葉の可否を判断してゆかなければならない。

それが現在の僕の仕事に対する態度である。


 
 
 

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